上司、拾いました
 両腕に抱えると良い具合に収まる大きさ。

 ふわふわの黄色い毛並みに、虚空を見つめるくりっとした大きな黒目。

 オレンジ色の嘴もファンシーで、ぶらぶらと揺れる短い足。


 これは、お世辞でもなんでもなく、可愛い。


 私は動物でいうとひよこが一番可愛いと思っているのだが、特にこのコンビニのイメージキャラクター『ひーくん』はお気に入りのひよこキャラだった。

 パンやおにぎりに貼ってあるポイントシールを集め、ひーくん食器と引き換えてもらうためにちまちまと集めている程度にはお気に入りだ。

 同期の女性社員や佐伯先輩という大学のサークルと職場、両方の先輩である人にまで、ポイント集めを協力してもらっているほどに大好きだ。


 確か、この大きめのぬいぐるみは五百円以上お買い上げにつき一回ひけるクジの景品だったはずだけれど。

 そう思いながら東間さんの手にしているコンビニ袋をちらりと見れば、カップ麺の容器と野菜ジュースのボトルが見えた。


 この人、野菜ジュースさえ飲んでれば、十分な栄養がとれると思ってるタイプの人だ。


 なんとも言えない気分になりつつひーくんを抱き、「あの、東間さん」と顔を上げた。

 するとその人はなぜか眉をしかめて明後日の方向を向いていた。

 今にも舌打ちを零しそうだが、私が一体なにをした。


「……なんだ」
「丁度親子丼を作ったところなんですが、夕食がてら食べていきません?」


 軽くそう提案してみると、東間さんは一瞬表情を変えないままこちらを凝視してから「は?」と心底不可解そうな顔をした。


「なんで俺が」
「これのお礼です」 


 そう言いながらひーくんを差し出して見せる。


「正直に言うと、作りすぎてひとりでは食べ切れないからです」


 というのは嘘だ。

 多めに作っているのは本当だが、それは作り置き用にもするから多めに用意しているだけでしかない。

 それでも東間さんを夕食に誘ったのは、お節介ながら東間さんの食生活がとても心配になったからに他ならなかった。
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