上司、拾いました
「さあ、どうぞ」


 私がそう言って中に入るよう促しても、東間さんは腑に落ちない様子で口を開く。

 
「……そういわけにもいかないだろ。昨日は仕方ないにしても、一人暮らしの女の部屋に入れるか。それに、別に礼が欲しくてそいつをやったわけでもない」
「はあ」


 本当にびっくりするほど真面目な人だ。

 ある意味誠実で好感すら覚えるが、この場に限っては面倒くさくもある。

 こっちがいいと言っているんだから別にいいのに。

 どうせ私のことなんて、ろくに女として見てもいないに決まっている。

 ……いや、ここまで食い下がるということは、最低限のラインはクリアしているのかもしれないけれど。


 そんなことを思いつつ、小さく息を吐く。


「ご飯食べるだけですよ。食べたらさっさと帰ってもらいます」
「……しかし」
「わかりました」


 これでは埒が明かない。

 そう悟った私は、東間さんに少し待っているように言って一度室内へと戻った。

 それからひーくんぬいぐるみをベッドに置き、すぐさま台所へ向かう。

 始めに手早く丼に白米を盛り、次に親子丼の具をかけ。

 味噌汁と簡単なサラダも皿にわけてから、大きめのトレーにそれを全部置く。

 そしてトレーを両手に持ったまま、玄関へと戻った。


「お待たせしました」
「なんのつもりだ」
「うちで食べるのが嫌なら、ご自宅でどうぞ。お部屋までなら持っていきます」


 さすがにそこまでやると、東間さんは言葉につまったように口を閉じ、諦めたように溜息をついた。


「……わかった、頼む」
「頼まれました」


< 22 / 24 >

この作品をシェア

pagetop