上司、拾いました
「私、同じ課の三樹紗彩(みきさあや)です。東間さん、こんなところで寝ていると風邪を引きますよ」
「……三樹?」
頭痛を堪えるように額を押さえながら、思い出すように東間さんが言う。
それからやがて合点がいったように、「ああ、お前か……」と頷いた。
「なんでお前が、ここに」
「私もここに住んでいるもので」
「……そうか、それは偶然だな」
やはりどこかうつつとした様子で言う東間さんは、壁伝いになんとか立ち上がろうとする。
そして一歩踏み出しかけ、足をもつれさせて盛大に転倒した。
ああ、全然大丈夫じゃないなこの人。
普段が普段なだけに余計心配になり、放り出された鞄を拾い上げて、痛みに震えている東間さんに近寄る。
「どれだけ飲んだんですか、この有様は」
「……わからん」
覚えてない。
一番心配になる返答をされ、私はひとつ息を吐いてから立ち上がる。
そして手を差し出しながら、「鍵貸してください」と言葉をかけた。
「部屋の中までぐらい、連れて行きますから」
「……鞄の中にある。すまない」
職場であれば絶対に聞かないだろう弱気な謝罪に、ひどい違和感を覚えた。
この人は本当にあの鬼の社畜、東間さんなのだろうか。
忘年会等々の飲みの席でも、顔色一つ変えなかったあの人が。
そう首を傾げつつ、きちんと整理されている鞄の中から鍵の束を見つけ出す。
そして自分の部屋の鍵とよく似たデザインのものを見つけ出し、目の前の二〇四号室へと差し入ようとした。
「……ん?」
しかし、うまく差し入れることができない。
違う鍵だったのだろうかと思いつつ表札を確認したが、やはりいつものとおりそこは空欄で、確かめることはできなかった。
「東間さん。部屋はどこ――って」
ちょっと目を離したすきに、東間さんは再び眠りの底に落ちていた。
「……三樹?」
頭痛を堪えるように額を押さえながら、思い出すように東間さんが言う。
それからやがて合点がいったように、「ああ、お前か……」と頷いた。
「なんでお前が、ここに」
「私もここに住んでいるもので」
「……そうか、それは偶然だな」
やはりどこかうつつとした様子で言う東間さんは、壁伝いになんとか立ち上がろうとする。
そして一歩踏み出しかけ、足をもつれさせて盛大に転倒した。
ああ、全然大丈夫じゃないなこの人。
普段が普段なだけに余計心配になり、放り出された鞄を拾い上げて、痛みに震えている東間さんに近寄る。
「どれだけ飲んだんですか、この有様は」
「……わからん」
覚えてない。
一番心配になる返答をされ、私はひとつ息を吐いてから立ち上がる。
そして手を差し出しながら、「鍵貸してください」と言葉をかけた。
「部屋の中までぐらい、連れて行きますから」
「……鞄の中にある。すまない」
職場であれば絶対に聞かないだろう弱気な謝罪に、ひどい違和感を覚えた。
この人は本当にあの鬼の社畜、東間さんなのだろうか。
忘年会等々の飲みの席でも、顔色一つ変えなかったあの人が。
そう首を傾げつつ、きちんと整理されている鞄の中から鍵の束を見つけ出す。
そして自分の部屋の鍵とよく似たデザインのものを見つけ出し、目の前の二〇四号室へと差し入ようとした。
「……ん?」
しかし、うまく差し入れることができない。
違う鍵だったのだろうかと思いつつ表札を確認したが、やはりいつものとおりそこは空欄で、確かめることはできなかった。
「東間さん。部屋はどこ――って」
ちょっと目を離したすきに、東間さんは再び眠りの底に落ちていた。