上司、拾いました
「――なッ!?」

 なんだかよくわからない夢を見てうつつとしていた意識の中、そんな男の声で目が覚めた。

 ひどく驚いたようなその声をうるさいなぁと思いつつ、目を擦りながら上半身を起こす。

 すると、私のベッドから起き上がり、目を見開けて唖然とこちらを見ている東間さんがいた。


 ――東間さんが再び寝落ちした後、私は結局自分の部屋にその人を連れて帰った。

 結局二〇四号室の鍵は開かず、他の部屋は明らかに違う人の苗字が表札に出されていたのだ。

 放置以外の選択肢を選ぶなら、必然的に連れ帰ることになった。


 ……さすがに二十センチ以上自分より背の高い男の人を担いでいくのは、物凄く骨が折れたけれど。

 途中で何度も転びかけたし、ベッドに放り投げた頃には完全に息が上がっていた。

 そしてさすがに同じベッドで寝るわけにはいかないと、私は最終的に床で寝た。

 夏用のタオルケットを床に敷いて、クッションを枕に、厚手のコートを二枚掛布団代わりにして。


 さすがに寒くて途中で何度も起きてしまったし、今だって体中がどことなく痛い。


「おはようございます、東間さん」


 そう欠伸をしながら挨拶をしてみると、その人は寝癖のついた頭で慌てて自分の恰好を確認していた。

 コートと上着は脱がせておいたので、今はまだラフな白いワイシャツ姿だ。

 それでもまだ混乱しているようにこちらを二度見する東間さんに、とりあえず手を横に振っておく。


「あの、別に間違いとかは犯していないので安心してください」
「そ、そうか……いや、そうじゃなくてだなッ」


 そう勢いよくベッドから降りようとして途中でふらつき、大きな音を立てて東間さんが転落した。

 今は午前八時過ぎ。うるさいと下の階から苦情が来なければいいけれど。


「ッ――!」
「大丈夫ですか?」


 頭から落ちて聞えない悲鳴を洩らしている東間さんに、のそのそと近寄る。

 今すぐムービー録画をして同期たちに拡散したら、さぞかし面白いことになるだろうなぁ。

 さすがにやらないけど。
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