上司、拾いました
 ローテーブルに紅茶の入ったマグカップを置いて待っていると、少しだけマシな顔になった東間さんが戻ってきた。

 と言っても、二日酔いで気怠い表情でもイケメンなことに変わりはないのだけれど。

 つくづく、今更になって、この状況が不思議だ。


「……悪い、タオル使わせてもらったぞ」
「いいですよ」


 そう言いながら、どうぞどうぞと向かい側へ座るように促す。

 相変わらず頭から手が離れていないその人に、私はカップを差し出した。


「蜂蜜入りの紅茶です。二日酔いには蜂蜜が良いそうで」
「そうなのか……」


 普段なら絶対に見せないだろう、どこか感心した頷きに再びスマフォを構えたい衝動に駆られる。

 写メりたい。ムービー撮影したい。

 こんなレアな光景を後の人生どれだけ見ることができるだろう。

 そう思うとひどくうずうずしたが、さすがにやめた。

 二日酔いで苦しんでいる人を野次馬根性で面白がるのは良くない。うん。

 
 そしてそんなことを考えている間に、東間さんがゆっくりと紅茶を口に運ぶ。

 私も自分の分の紅茶を飲んでいると、その人が僅かに眉をひそめる様子が見えた。


「どうかしましたか?」
「……甘いな」
「まあ、蜂蜜が入ってますから。甘いもの、苦手なんですね」


 こういう人は逆に甘いものが好きなんじゃないかと思っていたけれど、そうでもないらしい。

 東間さんは「ああ」と頷きながらも、ぐっとそれを飲み干す。

 豪快な飲みっぷりだ。


「……その、三樹」


 空になったカップを置いて、東間さんがどこか改まった様子で口を開いた。
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