上司、拾いました
「迷惑を、かけた……。すまなかった」


 潔く、とまではいかなかったが、バツの悪そうな表情でその人は呟く。

 部下に謝るの、慣れてないんだろうな。

 確かに東間さんがミスをして、誰かに迷惑をかけたなんて話は聞いたことがない。

 それでも、この人はこの期に及んでも不遜な態度を貫き通すと思っていたので、少しだけ意外だ。


「別にいいですよ。職場では何度もご迷惑をおかけしましたから」
「いや、それとこれとは別じゃないか?」


 そうどこか弱った様子で言う東間さん。


「俺みたいなやつを運ぶのは大変だっただろうし、恋人でもないのに部屋に上がり込んで、ベッドまで占領したんだぞ? 相手が三樹とはいえ、女を床に寝かせて」
「東間さん、何気に失礼ですね」


 『相手が三樹とはいえ』ってなんだ。

 この上司にとって私はどういう部下なんだ。

 ベッドを占領云々よりもそっちに腹が立つ。


「ともかく、大方私が勝手にやったことです。気にしないでください」
「しかし……」


 どこか腑に落ちないご様子の東間さん。

 迷惑をかけた手前、落としどころが見つからず、気にしないなんてことができないのだろう。

 失礼な人だけど、やっぱり真面目だ。

 
「それなら、いつでも構いませんので駅前にあるパレットというケーキ屋さんで、お礼にプリンを買ってきてください。それでチャラにしましょう」
「……そんな菓子でいいのか?」
「はい。少しお高めのプリンなので、割と遠慮してません」


 ここで変に安いものをお礼に要求しても、この人は納得できないだろう。

 そう考えて私が頷くと、ようやく東間さんは「わかった」と口にした。
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