WOLF-孤独のその先-
あれから1週間してスグルさんのお店には二回出勤した。
今日は三回目の出勤だけどキョウヤはいない。仕事があるらしい。
「ねぇ、チヒロさん」
「どうしたの?ナオちゃん」
もうすぐ閉店だというのに店にはまだちらほらと人がいて、首を傾げるその姿は女性客の目を釘付けにしているのを彼は気がついているのだろうか。
「キョウヤのさ…誕生日」
そこまでいって言葉を止める。
あんな事を言われても私はキョウヤのために何かをしたいと思っている、だってきっと嬉しくない人なんていないから…祝われて嬉しくない人なんていないから
「祝うなって言われた」
「……………」
誕生日の孤独というものを知っているからこそそう思える。ただの軽はずみな考えじゃない、興味本位なわけでもない
「でもね、私お祝いしてあげたい…」
「……うん」
「私小学生のころからずっと誕生日なんて一度もお祝いしてもらった事ないの」
ポツリと呟く私の声は店内の穏やかな曲に飲み込まれそうで
「だから思うんだ…」
「…………」
「例えばキョウヤが年をとってふと思い出した時に、あの時の誕生日楽しかったなってそう思い出したら良いなって」
心からそう思う、もし辛い事があったときそれを思い出して少しでも笑ってくれたらって。
「キョウヤに何があったかは分からないけど、私達のする誕生日会を思い出して俺の人生も捨てたもんじゃないなって、あの日はくだらなくて笑えたなってそう思えるような日にしたいから」