主任は私を逃がさない

 変な虫がつかないようにと中学からエスカレーター式の女子校に入れられ、短大を卒業するまでずっと私の日常は宝塚。

 部活動も、サークル活動も、アルバイトも一切禁止の軟禁生活。

 門限は時間指定制じゃなくて日没だったから、日が暮れるのが早い冬場は本当に大変だった。

 沈む夕日と競いながら、家を目指して何度全力疾走したことか。


 身だしなみは常に親のチェックが入るから、私が着る服はいつも地味で男の目を引かないような物ばかり。

 化粧の濃さまで管理され、所要時間30秒でもおつりがくるような簡単メイクでなければ許されない。

 親戚一同が会合しても、当然集まるのは女ばかりだし。

 私が成人するまでの間にまともに接触した男性といえば、親戚の旦那さんと、ご近所さんと、学校の先生だけ。


 冗談抜きで、私の近くには男が本当に寄って来ない。

 ペットショップの雄のスコティッシュフォールドにまで嫌われてそっぽを向かれた時は、さすがに泣きたくなった。

 夜中に両親が、新種の防虫スプレーでもコッソリ振りかけてるんじゃないだろうか。

 これはやっぱり男を排除する家系の呪いが効いているんだと思う。


「この異常な環境で、男の免疫なんてつくわけないじゃない」

「陽菜の両親に今回の件がバレたら、警察沙汰か裁判沙汰になるわね」

「ダメ! それだけは絶対にダメ!」


 私は青ざめながら勢いよく顔を横に振った。

 先月からうちの両親は、父親の転勤で県外に住んでいる。

 その時だってもう散々、モメるだけモメまくったんだ。

 なんとしてでも娘も一緒に連れて行こうとする両親と、親から逃れる千載一遇のチャンスに賭けた私との、壮絶な攻防戦が繰り広げられた。

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