主任は私を逃がさない

「ああ、奥栄商事さんですか! どうも!」

「中山さんですか? 私、いつも電話でお話してる間山です!」

「中山さんって、あの中山部長のお嬢さんなんですよね? 部長はお元気ですか?」

「中山部長には大変お世話になりました。よろしくお伝えください!」

「はい、おかげ様で父は元気です。お気遣いありがとうございます」


 直接会ったことはないけれど、もちろん皆さんは私の事も、父の事も知っている。

 思わぬ出会いにすっかり盛り上がってる同僚たちの様子を、松本さんは不安そうに見ていた。

 その顔色が私のひと言でサッと青ざめる。


「私、松本さんにはお世話になったんです。色々な事を教えて頂きました。仕事も、『それ以外』も」


 思わせぶりな私のセリフに、数人の女の子がすかさず『ん? それ以外?』と微妙な表情を見せた。

 私は心の中でグッとコブシを握りしめてほくそ笑む。

 よっしゃ食い付いた! さすが女はこういった事には鋭い!

 その危険な気配を読んだ松本さんが、私を黙らせようと慌てて口を挟んできた。

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