主任は私を逃がさない
「中山さん、あの……」
「松本さんは誰にでも親切でしたけど、私は『特に』親切にして頂きました」
「な、中山さん、俺は別にそんな全然」
「あらでも、よく車で送り迎えしてくれたり、ドライブに誘ってくれたり、お食事もご一緒したわよね?」
『送り迎え』&『ドライブ』&『一緒に食事』
これは効いた。ここで微妙な反応を見せる人数がいっきに増えた。
というか、ほぼ全員。
さっきまでの盛り上がりが嘘のようにシンとして、みなさん神妙な顔で私と松本さんを交互に眺めていらっしゃる。
この気まずい空気にすっかり追い詰められた松本さんは軽いパニック状態だ。
「な、中山さん! だからそれは……」
「あんなに親切にして頂いたのに、担当が変わった途端にパッタリ会えなくなってしまって残念です。ほんとに、嘘みたいにパッタリ。……ねえ? 松本さん……」
これでもかというくらい意味深な目つきで、松本さんを見上げてやった。
その渾身の視線から、ワケありな事情を悟ったらしき皆さんの目が刺すように松本さんに集中する。
無言の視線が語っているのは明らかに……
『……お前! 取引先の部長のお嬢さんに手ぇ出して、しかもポイ捨てしたのか!?』