主任は私を逃がさない

 松本さんたらもう、完全に目が泳いじゃってるし、額から変な汗がドッと滲み出てるし、今にも失神しそう。

 私は愉快で愉快で、今にも笑い出しそうになる口元を必死になって引き締めた。

 ……もうひと押しいっちゃおうかなー?


「せっかくこうして再会できたんですし、良かったら私も皆さんと同席……」

「な、中山さん! 席でお友達が待ってるんじゃないの!?」


 松本さんは風邪を引いたニワトリみたいな裏返った声を出し、目で懸命に訴えている。

『頼むから、これ以上余計な事は言わないでくれ!』

 今にも泣き出してしまいそうな顔を見た私は、満足してニッコリ微笑んだ。

 やり過ぎは逆効果だ。ほどほどが大事。過ぎたるは及ばざるがごとしって言うものね。


「それもそうですね! それじゃ私、これで失礼しまーす!」


 明るく元気に挨拶をして、サッサとその場から立ち去った。

 仲間の元へと向かう私の足取りは軽やかで、気持ちは炭酸飲料水のようにスッキリさっぱりしている。

 ボカした事しか言わなかったけど、さすがに皆さんキナ臭い事情を察してくれたようだ。

 さあ松本さん、これからどう言い繕うつもり?

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