主任は私を逃がさない
短い文面から、史郎くんの気持ちが直に伝わってくるような気がした。
その思いをほんの少しも逃さないよう、私は画面を食い入るように見つめる。
『無事に家に着いたら連絡くれるか?』
『うん。もちろん』
『待ってる。それじゃ』
『それじゃ』
通信終了。
周囲のざわめきの中で私はスマホを両手でギュッと握りしめる。
そこに史郎くんの温もりを探すように。
周りの笑い声も、酔った大声も、調子っぱずれな歌声も、私の耳には入らない。
まるで自分だけが別世界にいるように、私の心は彼の姿だけを追い求めている。
お酒なんか一滴も飲んでいなくても、私の頬はバラ色に染まっている。
鼓動は速く、強く。体は熱く、もどかしく。
そして心は切なく、真っ直ぐに、ただひとりの人に向かって逸る。
自分の誤魔化しようもない気持ちを痛いほど思い知って、やっと私は悟った。
私が大人の女性になるために本当に必要なことがなんなのか。
悩んだり、迷ったり泣いたりしたけど、ようやく分かったんだよ。史郎くん。
ねえ、史郎くん……。