主任は私を逃がさない
「でもさ、何も髪やメイクまでスパッと元に戻さなくても良かったんじゃない?」
友恵がガラステーブルに頬杖を突き、右手でフォークをクルクル回しながらちょっと唇を尖らせる。
「せっかく似合ってたのに。すごく可愛かったよ? お世辞抜きで」
「ありがとう」
微笑んでお礼を言う私の髪は、明るめベージュカラーから漆黒に戻っていた。
つまりこの前のサロンに行って、もう一度黒く染め直してもらったわけだ。
本当は髪型もストレートに戻したかったんだけど、それだとちょっと髪に負担がかかり過ぎると言われて断念した。
「もう二度と餌食にされない為に武装してたつもりだったけど、それは意味がないって分かったから」
「意味がない?」
「うん。だって私、変身してても結局松本さんにちょっかい出されたし」
史郎くんに言わせれば、花岡さんも私にちょっかい出すつもりだったらしいし。
なら髪型変えたり、メイク変えたり、着る服変えたりしても、そんなの意味ないって事よね?
「だったら自分で好きな恰好していた方がいいもの」
「お洒落な恰好は好きじゃないって事?」
「ううん。ただ、目的と手段がズレていたんだって分かっただけ」