主任は私を逃がさない
私は情けない自分が嫌だった。自分自身に自信を持ちたかった。
でもどうすればいいのか分からない。そんなの自分で判断できない。
だってそもそも、その『自分』に自信が持てないのに。
だから他人に髪を染めた方がいいって言われたなら、そうなのかと思って染めて。
他人が素敵って言ってる物なら、きっと素敵で間違いないんだと思って。
他人からの借り物を自分の物みたいに装って、見せびらかしながら虚勢を張っていたの。
ほらどう? これなら完璧なんでしょう? この私なら誰も文句はないわよね? って。
それじゃ空回りするのも当然だ。本末転倒だもの。万事物事がうまく運ぶはずがない。
『そんなお前はお前じゃない』
史郎くんが言ったあの言葉の意味や、私をあのお店に連れて行った本当の目的もようやく分かった。
彼は、私以上に私の事を理解してくれていたんだ。
「つまり陽菜は、目の前のゴールに向かって右ナナメ横向きながら突っ走ってたわけね?」
「わー、その表現、身につまされ過ぎて痛い」
「でもだからって、お洒落しちゃいけないってわけじゃないと思うけど?」
「それはもちろんそうよ。ただ、自分が望んだ形でね。……いろいろアドバイスしてくれた友恵には申し訳ないけれど」