主任は私を逃がさない

 私はずっと両親に庇護されて生きてきた。

 鬱陶しいと思っていたけど、そのお蔭で今までずっと傷付くことなく生きてこられた。

 そして檻から飛び出し、喜び勇んで自分の足で歩き出した途端、転んでケガして泣きを見た。

 ……我ながら笑ってしまうほど情けない。


 それでも私は、もう二度と檻の中に戻ろうとは思わないの。

 だって檻の外の世界には、痛みや涙と引き換えに手に入れられる物があるかもしれないから。

 確実に手に入れられる保証なんてどこにもないけど。

 それでも私の心は真っ直ぐ史郎くんに向かっている。こんなにも強く、自分でもどうしようもないくらい。

 だから、求めずにはいられない。たとえその結果が、また痛みと涙になるのだとしても。

 
「それにもし史郎くんに受け入れてもらえなくても、友恵がついててくれるしね」

「あたし?」

「傍にいてくれるでしょ? 一緒に泣いてくれる」


 私が史郎くんに告白して、玉砕して

『やっぱり告白なんかしなきゃ良かったー!』

 ってみっともなくギャンギャン泣きわめいても、友恵は私と一緒にケーキを食べてくれるだろう。

 だからきっと大丈夫だ。勇気を掻き集めて、清水の舞台から飛び降りてみようと思う。

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