主任は私を逃がさない
「飛び降りて、もしも着地に失敗したらその時はまたよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げてから顔を上げた私を、友恵はじっと見つめた。
ひどく感慨深そうな表情で、少し赤くなった目をシパシパと瞬かせている。
「陽菜ったら急に大人になっちゃって。自立しろ自立しろって言い続けてきたけど、いざこういう場面に遭遇すると寂しいもんね」
「友恵、なんか親の心境になってない?」
「心配でも背中を押すべきよね。雛鳥の門出だもの。あんたの成長を親友として心から喜んでやるわよ」
「成長してる……のかなあ? 私ほんとに」
ケーキの刺さったフォークを見ながら小首を傾げる。
なんだか、やってる事はたいして進歩してないような気もするんだけど。
結局、自分がやりたい事をやる為の、カッコイイ理屈をつけてるだけで。
「それでいいのよ。ちゃんと成長してるわ。少なくとも……」
友恵はフォークでごっそりケーキを削り取り、私に向かって突き出しながらニヤリと笑った。
「手づかみじゃなく、フォークでケーキを食べられるくらいにはね」
「……確かにね」
私は笑って、目の前のケーキに大口を開いて食い付いた。