主任は私を逃がさない
あなたは私を逃がさない
落ち着きをなくした動物園の熊みたいに、私は我が家のリビングをグルグル歩き回っている。
さっきから三十秒毎に時計を眺めては、ドキドキする胸を押さえて溜め息ばかり。
もうすぐ。もうすぐ史郎くんが家に来る。
その先に展開するシーンを想像するだけで、緊張のあまり心臓がジタバタ大暴れしてしまう。
『大事な話があるから、都合のいい時に家に来てほしいの』
飲み会の夜、家に戻った私は史郎くんに電話でそう頼み込んだ。
快く了解してくれた史郎くんがもうすぐここに来るはず。
まさか私に告白をされるなんて夢にも思わずに。
その時史郎くんはどんな顔をするだろう。
困惑するだろうか。迷惑がられるだろうか。拒絶されるだろうか。逃げ出されたらどうしよう!
……って、さっきから悪い展開しか思い浮かばないんですけど。
幼なじみの仲良し兄弟でいた方が良かったって、死ぬほど後悔する事になるかもしれない。
友恵にあんな威勢の良い宣言をしておきながら、いざとなると足が震える。
怖い。怖い。怖い。
ソファーに座ったり、立ち上がったり、歩き回ったり、また座ったり。
秒針が進むごとに私の鼓動も激しく鳴って、呼吸は速まり、手に汗が浮いて、まるでスポーツでもしてるみたいだ。
ああぁもう、これじゃ身がもたない! 史郎くん、来るならとっとと来……
―― ピンポーン
いやあぁぁぁ! ホントに来たーー!