主任は私を逃がさない
あなたは私を逃がさない

 落ち着きをなくした動物園の熊みたいに、私は我が家のリビングをグルグル歩き回っている。

 さっきから三十秒毎に時計を眺めては、ドキドキする胸を押さえて溜め息ばかり。

 もうすぐ。もうすぐ史郎くんが家に来る。

 その先に展開するシーンを想像するだけで、緊張のあまり心臓がジタバタ大暴れしてしまう。


『大事な話があるから、都合のいい時に家に来てほしいの』

 飲み会の夜、家に戻った私は史郎くんに電話でそう頼み込んだ。

 快く了解してくれた史郎くんがもうすぐここに来るはず。

 まさか私に告白をされるなんて夢にも思わずに。


 その時史郎くんはどんな顔をするだろう。

 困惑するだろうか。迷惑がられるだろうか。拒絶されるだろうか。逃げ出されたらどうしよう!

 ……って、さっきから悪い展開しか思い浮かばないんですけど。


 幼なじみの仲良し兄弟でいた方が良かったって、死ぬほど後悔する事になるかもしれない。

 友恵にあんな威勢の良い宣言をしておきながら、いざとなると足が震える。

 怖い。怖い。怖い。


 ソファーに座ったり、立ち上がったり、歩き回ったり、また座ったり。

 秒針が進むごとに私の鼓動も激しく鳴って、呼吸は速まり、手に汗が浮いて、まるでスポーツでもしてるみたいだ。

 ああぁもう、これじゃ身がもたない! 史郎くん、来るならとっとと来……


 ―― ピンポーン


 いやあぁぁぁ! ホントに来たーー!

< 123 / 142 >

この作品をシェア

pagetop