主任は私を逃がさない
真っ赤な薔薇の花束なんてマンガとドラマ以外で見るのは初めて。
こんなの本当に現実にあり得るのね。あまりの衝撃の大きさに声も出ない。
ポカンと呆けた私と花束を抱えた史郎くんは、薔薇を挟んでずっと向かい合っていた。
「陽菜?」
「……あ! あ、これ、私に? くれるの? 受け取っていいの? 私が?」
「もちろん」
「あ、ありがとう……」
私はやっと我に返って花束を受け取った。
一瞬、『なに言ってんだ? これはお前に買ったんじゃないよ』って引っ込められなくて良かったと、心の底からホッとした。
もしそんな展開になってたら、さすがに乙女心のダメージは計り知れない。
「近所の花屋で買ってきたんだ。俺が自分で選んだんだぞ」
ちょっと照れたような笑顔で自慢する史郎くん。
このイケメンが、この薔薇の花束を抱えて道を歩いて来たのか。
一歩間違えればギャグになるほど陳腐な組み合わせだけど、彼の顔立ちとスタイルの良さが全てを許している。
前にも思ったけど、つくづく人間、顔が良いって得な事だと思う。
改めて自分の腕の中に納まった花束を見ると、言葉にできないほどの大きな喜びが溢れてきた。
だって花束のプレゼントなんて、生まれて初めて……。