主任は私を逃がさない

「ここに入るのも久しぶりな気がするな」

 リビングに入るなり史郎くんが室内をグルッと見回した。

 小さい頃はしょっちゅう家に遊びに来てたけど、最近はご無沙汰だものね。

 懐かしそうな目で我が家の飾り棚やソファーセットを眺めている彼に、私はさり気なく声をかける。


「適当に座って。コーヒー飲む?」

「どうぞおかまいなく。あ、やっぱりコーヒーくれ。飲んで落ち着きたい」

「落ち着く?」

「あ、いやいや気にしないでくれ! やっぱりいらない!」

「……いま淹れるからちょっと待っててね」


 花束を抱えてキッチンに向かいながら、私はチラッと彼を盗み見た。

 やっぱり明らかに様子がおかしい。絶対に変だわ。いったいどうしたというんだろう。

 ……あ、まさか!

 私は思わず声をあげそうになり、口元に手を当てて大きく息を飲み込んだ。


 ま、まさか史郎くん、私が告白するつもりなのを感づいているんじゃ!?


 ……そうだわ! そうよ! だって勘の鋭い史郎くんのことだもの!

 いち早く私の気持ちを察してしまったんだわ! それであんなに狼狽している、ということは……?


 そこで私はまた小さな悲鳴をあげそうになり、必死に飲み下した。


 ……私からの告白をどうやって上手く断るか、悩んでいるのね!?

 きっとそうだ! 史郎くんらしからぬあの挙動不審ぶりはそうとしか思えない!

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