主任は私を逃がさない

「私……変わりたい」

 頬を伝った大粒の涙が次々と口の中に流れ込む。

 両手で交互にケーキを頬張りながら、痛いほど思い知った。

 こんな被害にあったのも、私が世間知らずで男を知らなすぎたから。

 今の世の中、純粋培養なんて無意味で無価値だ。無防備じゃ無事には生きていけない。

 もう決して、金輪際、こんな辛い思いはしたくない。


 だから変わりたい。もう二度と獲物として目をつけられることのないよう、自衛しなきゃならない。

 ネギしょって歩き回る鴨から卒業したい。これまでの自分から脱皮して、百八十度変身したい。


「今日から変わる。今までの自分を捨てるって決めた。私、変わる。絶対変わる……」


 ケーキをノドに詰まらせながら咽び泣き、オウムのように繰り返す私の肩を友恵がそっと抱き寄せた。

 そして優しく私の髪に頬を寄せる。

 耳元で、友恵が鼻を啜る音が聞こえた。

 私を包み込む体温と、その音が、ケーキでは癒せない焼きつくような激しい胸の痛みを慰めてくれる。


 騙されて処女を失った夜。

 私は無二の親友の前で顔も両手も髪もクリームにまみれながら、声を限りに泣き続けていた……。



  
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