主任は私を逃がさない
秘密の婚約者
あの決意と涙と生クリームまみれの夜から、数日が過ぎた。
そして連休明けで出勤した今日。
私が正面入り口から社内に一歩踏み込んだ途端、その場はちょっとした騒ぎになってしまった。
「おはようございます」
「あ、おはよ……え!? キミ、中山君!?」
「すごい! どうしたの!?」
「うっわー、誰かと思った! すっかりイメチェンしちゃったね!」
みんな私を見るなり目を見張って、驚きの声を出す。
うちの会社は大手とは言えないまでも、県内主要市町村の全てに支店や出張所を持つ中堅商社だ。
ここはその本社で、トップの本部、経理統合部、それぞれの専門各課とサポート部で組織されているから、抱える社員数はそれなりに多い。
その全員に私の噂が、ドミノ倒しのようなスピードで広まってしまった。
週末までの私しか知らない皆からすれば、信じられない現象なんだろう。
それくらい今の私の姿は、様変わりしてしまっていた。
何の変哲もなかった漆黒のセミロングヘアは、明るめベージュカラーのふわふわデジパヘアに。
お粉を叩くだけで済ませていたファンデは、下地リキッドとパウダーとハイライトとチークを駆使した美肌仕様。
これまで一切いじったことの無かったアイメイクは、お人形のようにアイラインぱっちり、マスカラばっちり目。
色付きリップを塗るだけだった唇は、チークに合わせた可愛いぷるツヤなピンク色。
みんなが驚くのも当然だと思う。
自分でも鏡を見て一瞬『誰!? ……あ、私か』って思うくらいの変貌ぶりだもの。