主任は私を逃がさない

 それでもスパルタ指導のおかげで、短期間でなんとか友恵先生の合格点をもらえるまでに成長できた。

 会社の皆の反応から見ても、まずまずの出来ばえなんじゃないかと思う。

 お世辞は入っているのだろうけれど、「可愛い」「よく似合う」と連発で称賛されて、私は喜ぶよりもホッと胸を撫で下ろした。


 良かった。あれだけ大金をつぎ込んでおいて、オカメインコじゃやっていられない。

 コスメや洋服や、靴やランジェリー、なぜかパジャマやスリッパに至るまで友恵に大量購入させられて、私の通帳残高は一気にスカスカになってしまった。

 クローゼットや化粧ポーチの中はギッチギチだけど。


 それはともかく、やっと今日から新しい生活が始まる。

 昨日までの自分とは生まれ変わった、充実した新しい人生のスタートだ!

 改めて気合いを込めたところで就業開始の音楽が鳴り、私は颯爽と自分の席について受け持ちの事務作業を始めた。

 この春に入社したばかりで、まだまだ新米の私に任せられている仕事は単純な雑用が主。

 ところが……。


「中山さん、メーカーに注文書送ってくれた?」

「あ、まだです。すみません」

「中山さん、ファイルボックスに新製品のパンフが見当たらないんだけど」

「あ、すみません。まだ差し替えてませんでした」

「中山さん、今日〆切の顧客請求額、そろそろ計算してくれた?」

「あ……」

「中山さん、納品した商品のロットナンバーが記載されてないんだけど」

「…………」

< 17 / 142 >

この作品をシェア

pagetop