主任は私を逃がさない

 ……松本さんと出会えて本当に良かったと、しみじみ思う。

 思い返せば子どもの頃から私は、女性にしか縁のない人生だった。

 というと誤解を受けそうな発言だけれど、そういうことでは無くて。

 ただ少しばかり複雑な事情がある。


 でももう何の心配も無い。私だって人並みに恋愛ができるんだって、こうして証明できたんだから。

 私はこれからも松本さんと一緒に温かい関係を育てていくんだ。

 大切な“初めて”を捧げた、この素敵な彼と……。


「俺、今日のことは一生忘れないよ」

「私も」


 髪を撫でられて、胸の奥をくすぐられるような温かい幸福感に包まれながら、そんな会話を交わす私達。

 この喜びや甘い会話こそが、真に結ばれた恋人同士の醍醐味なのね。

 今まで空想するしかなかったシーンを、自分が現実に体験しているなんて夢みたい。


「もうキミは大人の女性だよ。これからどんどん綺麗になっていく」

「やだそんな、恥ずかしいわ」

「きっと男が放っておかないよ」

「なに言ってるのよ」


 ひょっとしてそれ、ヤキモチってやつ?

 バカね。私はぜったい浮気なんかしませんよーだ。

 ふふ。でも妬いてくれるなんてちょっぴり嬉しいな。

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