主任は私を逃がさない
これまで何度も繰り返された会話に、私はゲンナリする。
史郎くん本人が、この婚約に大乗り気なんだから始末に負えない。
彼は自分を子どもの頃から可愛がってくれて、就職の世話もしてくれて、スピード昇進の後押しまでしてくれた私の親に絶対服従している。
私との婚約をふたつ返事で快諾したのも、ひとえに父への忠誠心からだ。
父の忠実な下僕である彼は、真面目な表情で私に訴える。
「俺はお前のご両親が留守の間、お前をしっかり監督する義務がある」
「やめてよ。私はもう子どもじゃないのよ」
「どうか陽菜を守ってくれと頭を下げて頼まれたんだ。その期待と信頼を裏切るわけにはいかない」
「そんなの知らないわよ。私のプライベートに口を出さないで」
もう正直、こんなの勘弁してほしい。
小さいころから親に管理され続けて、やっと解放されたと思ったら今度は史郎くんから干渉されて。
私の人生っていったい何なの? だから一刻も早く恋人が必要だったのよ。
このまま恋も知らずに結婚まで親の思い通りになって、自分の意思の無い人生を送らされる前に。