主任は私を逃がさない
「……と、いうわけで私は変わろうと決意したの」
「…………」
俯いて両手をギュッと握りしめながら話している間、史郎くんは一言もしゃべらなかった。
静かな室内に、恥ずべき一夜を告白する私の声が良く通る。
なんだか羞恥プレイを受けてるみたいで、今にも顔から真っ赤な蒸気が噴き出しそうだった。
ようよう白状し終えて、さあどんな反応が返ってくるかと身を固くしながら待ち構えた。
……ところが、いつまで待ってもなんの反応も返ってこない。
よほど呆れらているのか、バカにされているのか。私は恐る恐る顔を上げて彼の様子を伺った。
「史郎くん……?」
「…………」
「史郎くん? どうしたの?」
史郎くんの顔は血の気を失い、すっかり青ざめていた。
形の良い両目と、セクシーだと女子社員に評判の唇が、ハニワのように丸く開いている。
彼の時間はそのまま、まるで写真のようにピタリと停止していた。
「ね、ねえ史郎くん」
「…………」
「史郎くんってば」
「……さねえ」
「え? なに?」
「……さねえ。ゆるさねえ。許さねえ」
良くできた蝋人形のように硬直していた彼の全身がワナワナと震え始め、両目が鋭く吊り上がっていく。
それと同時に真っ青だった顔に、みるみる血がのぼってきた。