主任は私を逃がさない
「あのクソ野郎、許さねえ! よくも俺の陽菜を!」
大声で叫ぶや否や、イスを蹴倒すほどの勢いで立ち上がり、大股でズカズカ扉へ向かって歩き出す。
その悪鬼のような形相にたまげた私は、慌てて彼の後を追った。
「ちょっと! 何するつもりなの!?」
「決まってるだろうが! 松本のクソ野郎をブッ殺す!」
「史郎くん!?」
「許さねえ! 絶対に許さねえ! 俺のこの手であいつを殺してやる!」
「お、お願いだから落ち着いて!」
私は鬼神のように吼えて暴れる史郎くんの腕に必死にすがった。
やばい。完全に取り乱してる。
こんな事になって、私の両親からの期待と信頼を裏切ってしまったと自分を責めているんだ。
どれだけ忠実な神経してるんだろう。
「史郎くん、聞いて!」
「このままじゃ済まさねえぞ! ぜんぶ公にして社会的制裁を加えてやる!」
「聞いてったら! そんな事になったら私はどうなるの!?」
「……!」
「よく考えて。会社にも近所にも知られちゃうのよ? そしたら私、もう家から一歩も出られなくなる」
「陽菜……」
我に返ったように落ち着きを取り戻した彼は、私をじっと見つめる。
その顔が悲しそうに歪んで、史郎くんの大きな手が慰めるように私の肩にそっと乗った。