主任は私を逃がさない
「お前は俺がこれからずっと守ってやる。クソ野郎にも、他の誰にも、もう指一本触れさせないと誓うよ」
「だから、それが迷惑だって言ってるの!」
私は力任せに両腕を突っ張り、史郎くんの体を突き放して叫んだ。
「史郎くんが責任感強いのも、うちの親に忠実なのも分かるけど、それで結婚なんて行き過ぎよ!」
「え?」
「ちゃんと考えてみてよ! こんなの変だよ!」
実の妹同然に可愛がってきた私がこんな事になって、史郎くんが動揺しているのは分かる。
兄として心配で、放っとけないのも分かる。
……その思いやりは本当に嬉しく思ってるよ。でもね、だからって結婚するのは間違ってる。
「史郎くん、妹みたいな私と本気で結婚したいの? 忠義のための結婚でいいの?」
「…………」
「結婚ってね、好きな人とするべきだと私は思う」
懸命に訴える私の顔を、史郎くんは瞬きもせずに凝視している。
その表情はなんだか毒気に当てられたような、寝耳に水のようなポカンとした顔で、目が点になってしまっていた。
そんな彼の心中を推し量る余裕もなく、私はここぞとばかりに切々と訴え続けた。