主任は私を逃がさない

「私は立派な大人の女性なんだから、史郎くんの保護は必要ない」

「まんまと男に引っ掛かって騙されて、なにが立派な大人の女性だ」

「だから、これからはそんな心配ないのよ」

「いいや、俺には分かる。お前はまたすぐコロッと男に引っ掛かる」

「失礼ね!」

「自信があるってのか?」

「あるわよ! もちろん!」


 私にだって学習能力くらいある。

 あんな痛い目に遭わされたんだ。そう易々とまた引っ掛かってたまるものか。


「じゃあ、確かめてやる」

「……え?」


 私は仁王立ちした態勢のまま、小首を傾げた。

 確かめる? なにを、どうやって?


「しばらくの間、俺と付き合え。妹としてじゃなく、ひとりの女としてだ」


 言うなり史郎くんはサッと腕を伸ばし、素早く私の腰に手を回して強引に引き寄せた。

 お互いの体がピタリと密着して、彼の胸の広さと厚みを感じて、心臓がドキンと高鳴ってしまった。

 だっていくら兄弟同然だからって、さすがに抱き寄せられたことはない。


「お前が本当に一人前の女なのかどうか、簡単に男に落ちたりしないかどうか、俺が試してやるよ」


 戸惑う私の顎を彼は指先でクイと持ち上げ、上から覆いかぶさるように覗き込んできた。

 私は思わず息を飲んでしまう。

 史郎くんとこんなに接近したのも、こんなセリフ言われたのも、顎を持ち上げられたのも初めて。

 こんなに……色っぽい目で見られたのも。

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