主任は私を逃がさない
そういえばもうずっと、スーツ姿の史郎くんしか見ていない気がする。
だから余計に私服姿が新鮮に見えるのかもしれない。
子どもの頃から何を着ても似合ってたし、身内の欲目を差し引いてもやっぱり彼はカッコイイ。
「なんだよ、さっきからジロジロ見て」
「んー、ちょっと子どもの頃を思い出してた。よく一緒に遊んだよね」
「ああ、そうだな」
今思えば一緒に遊んだっていうより、遊んでもらっていたんだろう。
だって普通だったら、五歳も年下の小さな女の子となんか遊びたがらないだろうに。
でも文句も言わずに、よく面倒みてくれていた。
史郎くん頭が良かったから、次々と色んな遊びを考えついて、そのどれもが最高に面白くてワクワクした。
手先も器用だから彼の作るママゴト遊びなんかもう、芸術作品みたいだったし。
史郎くんと遊ぶの、本当に大好きだったな。
だけど大きくなって、次第に一緒に遊ぶ機会が減っていって。
大学生になった彼のスーツ姿を初めて見た時、なんだか自分が置いてきぼりにされたみたいで、寂しかったっけ……。