主任は私を逃がさない

「腹減ったろ? じゃあ店に行こうか」


 そう言って史郎くんは、私の方へ向けて自分のヒジを突き出してきた。

 そのポーズの意味が分からなくて私はキョトンとしてしまう。

 ん? これはなんのアクション?


「腕がどうかしたの?」

「エスコートしてるんだよ。デートなんだから」

「エ……エスコートぉ!?」


 な、なによその紳士的な態度は。ちょっとドキッてしちゃったじゃないの。

 不覚にも動揺してしまった自分が悔しくて、私はツンとそっぽを向いた。

 
「かっこつけないでよね! 偉そうに!」

「偉いもなにも、デートなら普通するだろこれくらい」

「しないわよ。松本さんと会う時は人目につかないようにしてたから、腕なんか組まなかったし」


 今思えば松本さんは腹黒い考えがあったから、コソコソしてたんだろうけど。

 でも一般的に、こういうのって隠したいものじゃないのかな?

 私だって勝負がついた後のことを考えると噂になったら困るし、できることならコソコソしたいと思います。

 なのに史郎くんは気にしないんだろうか。

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