主任は私を逃がさない
失敗は成功のもと、のはず
「なに考えてんのよあんたってバカじゃないのマジでふざけんな冗談じゃないわよ男ならちゃんと責任とりやがれこの、最低野郎ー!」
と、ひと息で長文を絶叫し切ったのは、私ではなくて。
事情を知って怒り狂っている、親友の月丘 友恵(つきおか ともえ)だった。
彼女は私の自室のビーンズ型ラグマットの上に正座して、この前通販で購入したばかりのガラステーブルを壊さんばかりにバシバシ殴りつけている。
「うっうっ……ヒック……モグ……」
私は友恵が買ってきてくれたイチゴのホールケーキを、手づかみでヤケ食いしながらベソベソ泣き続けている。
これが私の、唯一のストレス解消法。
昔から辛いことや悲しいことがあるたび、赤ちゃんみたいに手づかみでケーキをガツガツと貪れば、どんなことでもスッキリした。
でも今日は両手や口の周りが生クリームだらけになっても、少しも心は静まらない。
あの衝撃の出来事の後。
ホテルの前で『じゃ、さよなら』と手を振りながらあっさり離れていく松本さんを、私は呆然と見送った。
『ねえ待ってよ』
『私達は恋人同士じゃなかったの?』
『あなたにとって、この恋は遊びだったの?』
聞きたいことは山ほどあった。
でも私が問いかけたい言葉と、彼のあまりにも悪びれない、突き抜けた明るい態度とのギャップが大き過ぎて。
言葉がノドに詰まったように出てこない。
やがて彼の背中が完全に見えなくなって、取り残された私は仕方なく自宅へ向かうしかなくて。
暗澹とした感情を抱えて、ひとりぼっちでテクテク家路を急ぐうちに涙がポロポロ流れてきた。