主任は私を逃がさない
とにかく笑顔は鉄則。どんな不測の事態が起きようと、楽し気な微笑みは決して絶やしてはならない。
動作や口調はゆっくりを意識して、穏やかな女性の雰囲気を演出する。
そしてなにがあっても、男のプライドだけは傷つけてはならない。
デートの間中、お神輿をかつぐように全力で彼を持ち上げ続けるべし。
後は注文した料理は残さず食べるとか、テーブルにヒジをつくような見苦しい行為さえしなければ大丈夫だろう。
見事な振る舞いを見せつければ、史郎くんは私が大人の女性であることをちゃんと認識するはずだ。
困った事が起きたらすぐに連絡がとれるように、自宅で友恵がスマホ片手に待機してくれているし。
備えあれば患いなし。私は史郎くんにエスコートされながら気合い満々、中道へと入って行った。
見慣れない路地は住宅の他に小さな商店がポツポツ建っているだけで、あまりひと気もない。
……なんだか表通りからずいぶん離れてしまったけれど、こんな場所に女子に人気のお店でもあるのかしら。
あ、もしかしたら通しか知らない、隠れ家的なレストランとか?
さすがモテ男はそういったデート情報も抜かりないのね。