主任は私を逃がさない

「着いたぞ。ここだ」

 史郎くんが立ち止まり、私は期待と緊張の入り混じった気分で目の前のお店を見上げた。

 どれどれ!? どんな素敵な……お……みせ……。


「…………」

「ここはずいぶん昔から続いてる店で美味いんだ。俺のおススメ」

「…………」

「さあ入ろうか」


 入ろうか、と、言われても。

 あまりにも意外性に満ちた店構えに、棒立ちになってしまった足が一歩も動かない。

 ポカッと口を開けていた私はハッと我に返り、恐る恐る史郎くんに確認した。
 

「本当に、このお店なの?」

「ああ、そうだ」

「……この建物、築何年?」

「さあ? 創業は大正時代って聞いたけどな」

「く、崩れないよね?」


 って聞いてしまうほどボロい。

 あまりにも、あまりにも、ボロい。


 ここが史郎くんのおススメの店? 私達の初デートの場所?

 この平屋建ての、薄汚れた壁の、玄関枠も窓枠も今どき全部木製の、真面目に大正時代から建ってるんじゃないか? ってお店が?

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