主任は私を逃がさない
友恵との電話を終えて少し元気を取り戻した私は、トイレから出て史郎くんの待つ席へと戻った。
動揺を悟られないよう意識して背筋を伸ばし、ヒールをコツコツ鳴らしながらゆっくりと歩く。
「史郎くん、お待たせ」
私は彼の向かいに座りながら、ニッコリ余裕の微笑みを見せつけた。
そして、さり気なく店内を観察する。
意外と言っては失礼だけれど客入りは盛況で、昼食時ということもあってかほぼ席は埋まっている。
ただ客層はかなり限定されていて、近所の工事現場から来たらしい作業服姿のおじさんばかり。
店のディスプレイのほとんどが木製で、塗りの剥げたテーブルや、背もたれのないイスも全部木製。
天井のファンとか、異様に巨大なエアコンとか、振り子式のネジ巻き古時計とか、泣けちゃうほどに懐古主義。
以前に観た、昭和時代の日本映画がちょうどこんな感じだった。
そんなタイムスリップしたような周りの光景から、明らかにひとつ、浮いているものがある。
……私だ。
この景色の中では、レース柄ワンピースと、真っ白なパンプスと、ピンクのリボンのバッグは有り得ない。
滑稽なほど浮きまくっている。無重力レベルで浮いてる。
だから当然、私は周囲の注目の的だった。