主任は私を逃がさない

 こんなお店に連れ込んでおきながら、そのあまりに素っ気ない言い方にムッとした。

 反発心がムクムクと頭をもたげてきて、私はひったくるようにメニューを受け取って叫ぶ。


「私、焼き魚定食がいい!」

「そうか」


 ムキになってる私をサラリと受け流し、史郎くんは立ち上がってカウンターに注文しに行く。

 その背中を睨みつけながら、ふと、自分の恰好に目がいった。

 私が自信満々で身に着けている物は、友恵が選んだワンピース。友恵が選んだパンプス。友恵が選んだバッグ。

 全部全部、他人が選んだ物だ。


『自分が食う物くらい、責任もって自分で選べよ』


 …………。

 私は俯いてしまった。

 さっきの史郎くんの言葉が妙にズシッと重く胸に響いて、反発心もシオシオと萎れてしまう。

 でも。だって。そんなこと言ったって。

 私は世間知らずで何の知識もないんだから、誰かに頼るしかないじゃない。 


「ここは出来上がりが早いんだ。すぐ来るからな」


 注文を終えた史郎くんが、お水の入ったコップを持って来て私に渡してくれた。

 それから向かいの席に座って、おもむろに経済新聞を広げて読み始める。
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