主任は私を逃がさない

「…………」

「…………」


 そして、沈黙が訪れた……。


 史郎くんは新聞を熟読する態勢に入ってしまって、こっちを見ようともしない。

 話し相手のいない私は手持ち無沙汰で、無意識に視線を泳がせる。

 すると物珍しそうにこっちを見ているおじさん達の視線とバッチリ合ってしまって、慌てて俯いた。

 しばらくはモジモジ動く自分の指先を眺めていたけど、そんなことでは到底間がもたない。


 き、気まずい。この沈黙が気まず過ぎる。

 何なの? デートって普通、女の子が飽きないように男の方から話題を提供するものじゃないの?

 友恵からは、女は聞き手に徹するのが一番って教えてもらったし。

 だから相づちを打つタイミングとか、『まあ、そうなの? 知らなかったわ!』的な表情の作り方はレッスンしたけど、話題の振り方なんて学んでいない。


 ひょっとしてこれも史郎くんに試されているのかしら?

 豊富で洗練された会話術を駆使できるのが、大人の女性。

 お前にそれができるかな? ってことなの?

 だとしたらここで沈黙し続けているのはマズイ! こうして秒針が進むごとに減点されていってる!

 とにかくなんでもいいから話題をひねり出さないと!

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