主任は私を逃がさない
「史郎くん!」
「ん?」
「あの、ご趣味は?」
「…………」
「ご、ごめん忘れて」
失敗。定番だと思ったんだけど、定番過ぎて芸が無かったか。
物心ついてからの付き合いなのに、今さら『ご趣味』もないもんね。
だからといって私達に共通の話題があるかといえば、そうでもない。
いくら兄弟同然でも、さすがに大きくなってからはそれほど親密には過ごしていないし、婚約してからは意識して距離を置くようにしていたし。
「…………」
「…………」
史郎くんは相変わらず、カサカサと新聞をめくってばかり。
店内は厨房の揚げ物の音や、おじさん達の会話や、威勢の良い笑い声なんかが飛び交って賑やかだ。
なのにここだけ、お通夜のように不気味に静まり返っているのが堪らない。
ああ、気まずい。きっと減点されている。どうしようどうしようどうしよう!