主任は私を逃がさない
いっそこのまま、車道に飛び出してしまいたい。
そんな衝動をこらえて、なんとか無事に家に帰りついた私は、取るものも取りあえず友恵に電話で泣きついた。
こんなみっともない打ち明け話ができる相手は、世界広しといえども彼女しかいない。
小学校以来ずっと大親友の友恵はケーキを抱えてすっ飛んできてくれて、サメザメと泣きじゃくる私を前に吼え続けた。
「信じらんない! いくらなんでもあんまりよ!」
「うっう……あり、がと、友恵。そんなに怒ってくれて……」
「なに勝手に人の怒りを拡大解釈してんのよ! そのバカ男だけじゃなくて、あたしは陽菜にも怒ってるの!」
「な、なんで? あたしは被害者なのに」
「なんでって、それはこっちのセリフよ! なんでそんなバカ男に引っ掛かるの!?」
「グス……だって……」
だって初めて会った時、素敵な人だなって思ったんだもん。
結構イケメンで、ハキハキした口調が爽快で、でも物腰が丁寧で柔らかくて。
おまけに、すごく優しかったの。
初めて会った日、彼の書類に判子を押し間違えるケアレスミスをした私を笑って許してくれた。
『結構おっちょこちょいなんですね』
そんな風に明るくフォローして、上司に内緒でこっそり私のミスをカバーしてくれて、その優しさと笑顔に胸がキュンとした。
いったん意識し始めると、彼の言動がいちいち気になり始めて。