主任は私を逃がさない
「友恵ぇ! どうすればいいの!?」
結局私はまたトイレに駆け込んで、友恵に助けを求めていた。
『なに? 会話が全然弾まないって?』
「もう、全然! とりあえず笑顔だけは必死にキープしてるけど、誰にも相手にされてないのにひとりでニコニコ笑ってて、私ってバカみたい!」
『お店のインテリアを褒めるとかは?』
「インテリアっても、こけし人形と日めくりカレンダーしか見当たらない! 日めくりカレンダーのどこをどう褒めればいいの!?」
『む、難しいわね』
友恵は唸って考え込んでしまった。
一般的なデートの常識をことごとく無視した史郎くんの行動に、さしもの友恵も手を焼いているようだ。
『とにかく、ふたりは幼なじみなんだから。思い出話は豊富でしょ?』
「う、うん」
『それを生かさない手はないわ。過去を掘り起こすのよ。過去を』
「わかった」
電話を切り、席に戻って史郎くんの顔を眺めながら昔の記憶をあれこれ引っ張り出す。
思い出話か。でも改めて考えると、特にわざわざ話題にできるような記憶は無い。
どこにでもありそうな事ばかりよ。