主任は私を逃がさない
昔、ブランコに乗って史郎くんに背中を押してもらってた時。
勢いが強すぎて私の手がスッポ抜けちゃって、虹のように見事な放物線を描きながら地面に激突したっけ。
あの時は自分が死んだかと思った。公園中大騒ぎになったな。
そうそう、家でお昼ご飯を食べてた時、サービスのつもりで史郎くんの納豆ご飯にヤクルト2本ぶちこんだっけ。
ヤクルト好きだったから。史郎くん。
気がつかないでそのまま食べて、彼、思いっきり吐いてたなぁ。
うーん。どれもこれも、小さな頃には誰でもありがちな思い出よね?
新聞を読んでいる史郎くんを見ながらそんな事を思い出しているうちに、ふと思った。
史郎くんの手、大きくなったな。
昔、手を繋いで一緒に歩いていた頃は私とそんなに違わなかったのに。
ゴツゴツした手も、丸みの消えた頬のラインも、広い大きな肩幅も。
どれもが成熟した男の匂いを否応なしに感じさせる。
新聞をめくる指先や、凛とした表情や、ほど良い厚み加減の唇が、なぜか私の胸をキュンッと締め付けた。