主任は私を逃がさない

 史郎くんって男なんだ。

 当たり前のその事実を、いまさらながらヒシヒシと感じる。

 これまで“兄”としてしか見ていなかった人の中に“男”を見つけて、私の心は戸惑うと同時に不思議なざわめきを感じていた。


「なに見てる?」

 不意に史郎くんがチラリと視線を流してきて、ドキッとした私は思わず彼から目を逸らしてしまう。

 な、なんで目付きひとつがこんなに色っぽいのよ。この人は。


「べ、別に。史郎くんも大きくなったなぁと思って」

「なんだそりゃ。お前はどこのオバさんだよ」

「失礼ね。単純に見たままの感想よ」

「そりゃあガキの頃から比べれば大きくもなるだろ」


 そこで史郎くんは声のトーンを落とし、意味深な微笑みを浮かべて囁いた。


「一緒に風呂に入ってた頃に比べりゃデカくなったさ。……色んな部分がな」


 そのセリフを聞いた途端、カァッと顔に血が集まった。

 一緒にお風呂に入った時のことを思い出し、彼の言う『いろんなぶぶん』の意味が通じてしまって、恥ずかしいやら居たたまれないやら。

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