主任は私を逃がさない
カラカラ笑うおばさんの目尻には深い皺が刻まれて、三角巾から覗く前髪には白いものが目立つ。
でも肌は血色が良くツヤツヤしていて、全身からシャキッとした張りが感じられた。
「でもこの西田さんなら大丈夫よ、お嬢さん。顔だけじゃなく中身もいい男だよ、この人は」
「おう、西田さんなら俺も太鼓判押すぜ! なんせ俺のメシの味が分かる男なんだからな!」
「だろ? ふたり共もっと陽菜に言ってやってよ。俺の素晴らしさを」
自分の胸をバンバン叩く史郎くんのおどけた言い方に、また明るい笑いがおこった。
おかげでお店全体がふんわりした空気に包まれて、私はさっきまであれほど感じていた居心地の悪さを忘れてしまっていた。
おばさんが「ごゆっくり」と厨房に戻って行って、私と史郎くんは食事を再開する。
ひと口箸を運ぶごとに、自然と顔がほころんでしまう。
店内中に漂う美味しい匂いに包まれながら、そんな特別な時間を史郎くんと味わった。