主任は私を逃がさない
「ごちそうさまでした」
「おじさん、おばさん、また来るよ」
食事を終えてレジで会計をしながら、史郎くんが声をかける。
おばさんが忙しく配膳をしながら、シャキシャキと小気味良い口調で答えてくれた。
「お嬢さん、よかったらまた食べに来てね。いっぱいサービスするからね」
「その時は俺にもサービスしてくれよ、おじさん」
「だから、男にサービスする趣味はねえって言ってんだろが!」
おじさんの一喝にひとしきり笑って、私達はお店を後にした。
路地を歩きながら史郎くんにお礼を言う。
「史郎くん、奢ってくれてありがとう。ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
お店の匂いやあったかい雰囲気がまだ体の中にたっぷり残っているおかげで、私はずっと笑顔だった。
そんな私を見ながら史郎くんも笑う。
「いい顔してるな」
「え? なにが?」
「お前、子どもの頃から本当に美味い物食べるとそんな顔するんだよ」
「ど、どんな顔よそれ」
「最高に可愛い顔。お前いま、全世界で一番可愛い顔してる」
「…………」
「その顔見るの、昔から好きだった。だから俺の隣で、そんな幸せ独り占めみたいな顔をさせてやりたかったんだ」