主任は私を逃がさない
私の胸が、その言葉に抱きしめられたようにキュンと鳴った。
史郎くんの緩んだ頬や、優しく綻ぶ唇を見て、熱が湧いたように心の中が火照り始める。
それを誤魔化すように、私は努めて明るく会話を続けた。
「あのお店、史郎くんのとっておきのお店なのね」
「ああ、特別だ。だから今まで誰にも教えなかった」
素敵な笑顔のまま、私を真っ直ぐ見つめて彼は甘く囁く。
「陽菜だけだ。他は誰も連れて行かない。陽菜だけが俺の特別だから」
―― ドキン……
まるで心臓を鷲づかみにされてしまったように感じた。
息苦しい不思議な疼きを覚えて、私は落ち着きなく視線を泳がせる。
今どんな表情をして、どんな言葉を返せばいいのか全く分からず、ひたすら無言で歩き続けた。
私は大人の女性として、この場でどんな対応をするべき?
サラリと受け流して彼に反撃するには、どんなセリフが相応しいの?
ねえ友恵、教えて。私どうすればいい……?
突然、自分の手が大きくて温かいものに包まれる感触がして心臓が跳ね上がった。
……史郎くんが、私の手を握ってる……。
隠しようもないほど動揺した私は、勢いよく史郎くんを見上げた。