主任は私を逃がさない

『あれ? 今日は髪をアップにしてるんですか? 印象が変わりますね』


 ヘアスタイルを変えると、すぐに気付いてわざわざ声をかけてくれる。

 赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて俯く私に、『とっても似合ってますよ』って一生懸命褒めてくれたの。

 会社から出て行く彼を見送った瞬間から、もう次に会える日が待ち遠しい。

 彼のスーツ姿を見るたび、彼に話しかけられるたび、胸がドキドキして幸せな気分になれた。


 だから仕事の帰り道の途中で、寄ってきた車の運転席から突然声をかけられた時はすごく驚いたし、嬉しかった。

『いま帰り? 偶然だね。よかったら送っていくよ』

 あの爽やかな笑顔でそう言われて、乗らずにいられるわけないでしょう? 

 おまけに『今度一緒にドライブに行かないか?』って照れくさそうに誘われたら、完全に舞い上がるわよ。


 記念すべき人生初のデートを終えて、次は食事の約束をして。

 少しずつ親密度を上げながら、彼の車の中で夜の海を眺めながら体験した……初めてのキス。

 これってデートよね? 間違いなく私達、デートしたって言えるわよね?

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