主任は私を逃がさない
あのデート以来、史郎くんと過ごした時間を思い出すたびに、疼くような切なさを胸に感じて落ち着かなくなる。
彼の誠実さ。成長した男としての魅力。包み込むような優しい表情。低い声で囁かれる甘い言葉。
『陽菜だけだ。他は誰も連れて行かない。陽菜が俺の特別だから』
あの言葉を聞いた時、本当に心臓を鷲づかみされたかと思った。
ふたりで手を繋いだ温かい感触がまだはっきり残っていて、私はホウッと溜め息をつく。
まるで胸の奥で、ロウソクのような小さな炎が揺らめいているみたい。
グラスを傾けながら談笑している彼を見つめてポーッとしてる自分に気がついて、うろたえてしまった。
慌てて視線を逸らしながら、考えてしまう。
もしもこのまま、私が本当に史郎くんを好きになってしまったら?
彼が私のことを上司の娘としてだろうが、妹としてだろうが、とにかくすごく大事に思ってくれているのは伝わってきた。
それに、『ひょっとしたら』という期待めいた思いが頭に浮かんでくる。
ひょっとしたら史郎くんは、私をひとりの女性としても意識してくれているのかも……。