主任は私を逃がさない

「中山さーん、お疲れ様」

 不意に男性に話しかけられて、私は思考の淵から引き戻された。

 いつの間にか私の横には、同期入社の花岡さんが機嫌良さそうな赤ら顔で立っている。

 この人とはあまり話したことはないけれど、いつも面白い話題で会社の女の子を笑わせている陽気な人だ。

 
「あ、花岡さん。お疲れ様です。ビールのおかわり?」

「いや、もう腹ん中がタプタプだよ。中山さんはちゃんと食べたの?」

「それが忙しくて全然」

「じゃあ腹へったろ? 俺、テキトーに持ってくるから食べなよ」


 彼はそう言って、食べ物が並べられているテーブルに向かって歩いていく。

 そして手早く皿に料理を盛り付け、ニコリと微笑みながら私に差し出してくれた。

 へー。親切な人だな。

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