主任は私を逃がさない

「飲めない? ああ、ごめん。アレルギーかな?」

「ううん。飲んだことがないだけ」

「え? 中山さんビール飲んだことないの?」

「ビールというか、アルコール類全般、飲んだことがないの」

「ええ!? それホントか!?」


 花岡さんは目を丸くして叫んだ。

 その盛大な驚きっぷりを見たら、急に自分が子どもっぽい存在のように思えて恥ずかしくなってしまった。

 考えてみれば、今どきお酒もろくに飲んだことが無い大人なんて珍しいだろう。

 私は肩をすぼめながら慌てて言い繕った。

 
「あの、えぇと、ちょっと家庭の事情がありまして」

「……可愛い」

「え?」

「それって今どき純粋っていうか、お嬢様っぽいっていうか、穢れてないっていうか、とにかくすげえ可愛いよ!」

「え? は? え?」

「良かった。中山さんってやっぱり、俺が思ってた通りの女の子だったんだなあ」


 花岡さんはアルコールで赤くなった顔をさらに赤らめながら、ニコニコしている。

 私はその笑顔を引き気味に眺めた。

 お酒を飲んでない=穢れていない?

 ……それってどういう理屈? うちの父親もそうだけど、どうも男の理論って女の理解を超越している気がする。

< 67 / 142 >

この作品をシェア

pagetop