主任は私を逃がさない
「……そうよね。お酒を飲むのも大人のお付き合いよね?」
「そうそう。すごく大事なお付き合いだよ」
「私、二次会に出席してみようかな?」
「そうこなくっちゃ! 中山さんなら大歓迎!」
ちょうどタイミング良く、懇親会の終了を告げるアナウンスが会場内に響きわたった。
参加者の全員が盛大な拍手で場を締めて、それから各々のグループが連れ立って会場からゾロゾロと出て行く。
みんなこれから夜の街に繰り出すんだろう。大人のお付き合いの場に。
目の前を流れて行くスーツの波が、なんだか自分とは遠い世界の存在のように見えて焦ってしまった。
この波に乗り遅れてはいけない。私も繰り出さなきゃ。
幸い両親はいないんだ。これは大人へのステップを踏めという天からの啓示なのかもしれない。
「花岡さん、私も行くわ」
「よーし、一緒に行こう! 景気づけにこのビール、グッと飲み干しちゃえよ!」
花岡さんから手渡されたグラスの中で、ふわふわな白い綿帽子を被った金色の液体が輝いている。
これをきっかけに私は大きな一歩を踏み出すんだ。
恐る恐るグラスを口元に運び、覚悟を決めてビールを飲もうとした瞬間……
横から勢い良く伸びてきた手に、突然グラスを奪い取られてしまった。