主任は私を逃がさない
デートしてる男女なら、それは恋人同士なんじゃないの?
少なくとも私はそう信じていた。だから今夜、彼から求められて一線を越える覚悟もできたの。
交際を初めてまだ一か月だけど、大人の恋人同士ならこれが普通なのかな? って思ったから。
「愛してるって言われたの?」
黙って私の話を聞いてた友恵が、そこで口を挟んだ。
「一度でも、そいつから言われた? 好きだとか付き合って欲しいとかって明確な言葉を」
「…………」
口の中いっぱいのケーキを飲み込みながら振り返ってみれば、思い当る節が無い。
松本さんは優しい言葉や褒め言葉は、それこそ降るように言ってくれたけど、そういった種類のことは一度も言わなかった気がする。
「ひょっとして口止めされてない? 自分達がこうして会っているのは誰にも内緒だよ。とかなんとか」
「それは言われた。取引先の女の子と個人的に会っているのが上司に知られたら面倒だから、『ふたりだけの秘密だよ』って松本さんが……」
「決まりね。確信犯よ。そいつ最初から陽菜の処女狙いだったのよ」
「え……?」
「陽菜って見るからにガキだし、地味だし、おまけに世間知らずだし、いかにも男なんかひとりもいなさそうで……」
「友恵、それ、暴言」
「明らかに男経験無いのが丸わかりだもの。初モノ食いされたんだわ」